自己肯定感の欠如

フリーランスの映像制作者

自己肯定感の欠如

川崎や元事務次官の事件で思うこと。
今から20年程前、私は報道系の番組で青少年問題を追いかけていた。
当時は神戸などで未成年の殺人事件が続発していて、その本質を知りたいと思ったからだ。

元暴走族総長で数多くの非行少年を更生させている青少年育成コーディネーターの伊藤幸弘氏の密着取材を実施。更には少年院や教育現場などを取材し、同時に法務省の心理技官で元少年鑑別所所所長の奥村晋先生、児童精神科医の佐々木正美先生長など臨床現場の第一人者から長年にわたって様々なことを学んだ。

人は他人との関わりの中で自我を形成し、お互いに尊重しあうことで心の安定を保ち、成長していく。他人から認められ褒められることで自己肯定感が増す。
だが他人との関りが正常に機能しないと孤立し、やがて絶望する。そして自分が追い込まれたのは社会の責任と思うようになる。
こうした青少年がたくさんいた。外交的な性格だと社会に復讐するために家庭内暴力や犯罪に走り、内向的な性格だと不登校からひきこもり、薬物依存へと向う。私はそうした人たちにたくさん会って話を聞いてきた。その全てに共通していたのが「自己肯定感の欠如」だったのだ。

そこで痛感したのは、犯罪を犯してしまった少年少女も、引きこもりの少年少女にもある共通点があるということ。それは「自己肯定感の欠如」。つまり他人との係わりを持つことができずに、自分はいらない人間だと思い込んでしまうのだ。

その原因は幼児期からの成長、特に子育てにある。生まれて最初に関わるのは親と家族、幼稚園から大学、社会人へと成長する過程で自分に関わる人々が増え、自分を取り巻く社会の範囲が拡大していく。
幼児期に親の愛情をたっぷりと受け、周囲の人から褒められ認められてきた人は、早く自我を形成して社会の中で自立するが、そうでないと・・・・。

奥村先生は「親の最大の責任は子供に安心感を与えること」だという。佐々木先生は「正義の押しつけは自己否定を招く」という。伊藤氏は「愛情が厚いほど健全に成長する」という。
親の社会的地位が高いほど子供を立派に育てなくてはいけないという観点から、正義感を押し付けてしまう。かつて少年院で入所者に直接話を聞いた時、ある少年が「親の言うことは間違っていなかったが、毎日言われ続けることが苦痛で逃げたい気持ちで一杯だった」と話した。つまり、良い子になれない自分に対する苛立ち、自己否定感が積もっていくということだ。いじめなどで周りから無視され自分を肯定できなくなるということもある。

20周年前に青少年だった彼らは今40歳前後。今、盛んに報道されている事件の当事者の年代だ。あの頃から青少年問題に社会が的確な対応をしてこなかったことが最大の問題点と思えて仕方がない。

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